FUI入門 ― 映画の中の「架空のUI」はなぜ人を惹きつけるのか

マトリックスのFUI

SF映画やスパイ映画のスクリーンに映るインターフェースはとても未来的だ。ホログラムに浮かぶ地図、青白く光るデータストリーム、静かに脈動するセンサー画面。それらは「現実には存在しないUI」──つまり FUI(Fictional User Interface) と呼ばれる領域だ。

FUIとは何か

FUIは、映画・ドラマ・ゲームなどの中で登場する架空のコンピュータ画面や情報表示を指す。「HUD(Head-Up Display)」や「コンソールUI」、「ホログラフィックディスプレイ」といった形で登場することが多い。

現実のユーザーインターフェースとは異なり、FUIの目的は「操作性」ではなく世界観の強化にある。つまり“使いやすい”必要はなく、“説得力がある”ことが求められる。

代表的なFUIの例

『アイアンマン』シリーズ

映画『アイアンマン』シリーズでは、トニー・スタークのスーツ内部に投影されるUIが登場する。アイアンマンあるいは他のパイロットが使用するようなディスプレイを HUD, Head Up Display(ヘッドアップディスプレイ)と呼ぶ。名探偵コナンに登場する犯人追跡メガネも HUD のひとつと言える。

『アイアンマン』の場合は、複数の情報が空間上にレイヤー状に配置され、視線追従によって操作される。デザインしたのは Jayse Hansen。After Effects と Illustrator を組み合わせて制作されており、現在でもFUIデザイナーの教科書的存在。

ちなみに、アイアンマンのようなディスプレイは無限遠に結像するので焦点を合わせる必要がなく、現実でも軍事利用されているんだとか。

『ブレードランナー2049』

この作品のUIは、冷たくも有機的な世界観を補完するデザインで構成されている。画面に登場するフォントやノイズ、カラーパレットのすべてが、退廃と未来の境界を表現している。FUIチームは Territory Studio。彼らの作品は公式サイトで確認できる。

『マイノリティ・リポート』

マイノリティ・リポート』ではホログラムによる立体表示をジョン・アンダートン(トム・クルーズ)が指先で操作する場面がある。指先のジェスチャーで操作するUIが初登場したのはこの作品。当時のプロトタイプは実際にMIT Media Labの研究者と協力して作られた。映画から現実への逆輸入が起きた代表例といえる。

マトリックス

マトリックスのFUI

これはマトリックス三部作のひとつ『マトリックス:リローデッド』より。ザイオンの管制室のモニターのインターフェースデザイン。ザイオンの管制室では、真っ白の空間に真っ白の服を着た管制官が、船に指示を出したりザイオンのゲートの開閉を行ったりしている。二次元の画面に三次元が投影されていて、マイノリティ・リポートのように直感的な操作が可能なインターフェース。少ない色数の洗練されたデザインが特徴的。

007 ノー・タイム・トゥ・ダイ

No Time To Die の例

これは映画『ノー・タイム・トゥ・ダイ』にFUIの例。劇中に登場する FUI は Territory Studio が担当し。オフィシャルサイト では解説とともに作品の紹介をされている。

ディスプレイのデザイン的特徴

視覚的特徴

  • 密度
  • 細い線や点線が使われる
  • 背景は暗いことが多い
  • グロー効果が使われている
  • 若干色がグラデーション
  • 何層にもおよぶレイヤー
  • モノトーンもしくは少ない色使い
  • 小さい要素が散りばめられている
  • グリッドが使われている
  • 青や寒色系の色が多い

文字の表現

  • 大文字表現が多い
  • 等幅(monospaced)か幾何学的(geometric)なフォント
  • 同じ色でも透明度によって使い分けられている
  • 同じフォントでも細字、通常、太字が使いこなされている

自分でFUIを作るには

FUI制作は特別な才能よりも、観察力と構成力が鍵になる。まずは次のツールから触れてみるといい。

ツール 用途 備考

ツール 用途
Adobe After Effects モーショングラフィックス制作 SF風HUDを作るなら必須。 → Adobe公式で体験版を入手
Figma 構成やレイアウトの設計 ワイヤーや情報階層の整理に最適。無料で使える。
Blender 3D FUIの制作 ホログラムや空間投影を作りたい人におすすめ。

チュートリアルを探すならEnvato Elements のFUIテンプレートや、Domestika のモーショングラフィックス講座も有用だ。

まとめ

  • FUI=「物語を支えるデザイン」
  • 目的は操作性ではなく、説得力と世界観
  • 学ぶにはAfter Effects、Figma、Blenderが最適
  • アートブックや講座を通じて構成を理解するのが早道
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